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東京高等裁判所 平成9年(ネ)5891号 判決 1998年6月22日

主文

一  第一審原告及び第一審被告国の各控訴に基づき、第一審被告国に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告国は、第一審原告に対し、金四〇万円及びこれに対する平成八年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原告の第一審被告国に対するその余の請求を棄却する。

二  第一審被告の第一審被告大泉建設株式会社及び第一審被告東京あおば農業協同組合に対する各控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、第一審原告及び第一審被告国に生じた費用の各八分の一を第一審被告国の負担とし、第一審原告及び第一審被告国に生じたその余の費用並びに第一審被告大泉建設株式会社及び第一審被告東京あおば農業協同組合に生じた費用を第一審原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

(第五九一五号事件)

一 控訴の趣旨(第一審原告)

1 原判決を次のとおり変更する。

2 第一審被告らは、第一審原告に対し、各自四〇〇万円及びこれに対する平成八年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

4 仮執行宣言

二 控訴の趣旨に対する答弁(第一審被告ら)

1 第一審原告の本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は第一審原告の負担とする。

(第五八九一号事件)

一 控訴の趣旨(第一審被告国)

1 原判決中、第一審被告国敗訴部分を取り消す。

2 第一審原告の第一審被告国に対する請求を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告の負担とする。

二 控訴の趣旨に対する答弁(第一審原告)

1 第一審被告国の本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は第一審被告国の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、原判決三枚目表一行目の「機会を奪った」を「ことを怠った」に、同三枚目裏三行目の「賃借して」を「賃借し、その引渡しを受けて」に、同七枚目表八行目の「一」を「二」に改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄中「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠《略》

第四  当裁判所の判断

当裁判所の認定判断は、次のように改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄中「第三 当裁判所の判断」一ないし四記載のとおりである。

一  原判決一一枚目表一一行目の「同室の奥」を「本件貸室の出入口近く」に、同一一枚目裏九行目の「いなかった」を「いた記憶がない」に改め、同一一行目の「の撤去」を削り、同一二枚目表一行目の「処分」を「状況の調査」に、同四行目の「本件貸室」から同五行目の「高い」までを「証人内田の証言によっては前記認定を覆すに足りない」に改める。

二  同一三枚目表四行目の「の第三者」から同五行目の「推認される」までを「に塵埃が積もり一層荒廃が進んだ」に改める。

三  同一四枚目表四行目の「共同住宅」から同六行目の「かかわらず、」まで及び同一〇行目の「のであり、右の基本的な調査方法を講じなかった」を削り、同一四枚目裏六行目の「競売物件」から同八行目文末までを「執行官は、競売物件の占有関係等の現況について事案に応じて適切な方法により可能な限り正確に調査するように努めるべき義務があり、この義務を怠った場合には、国害賠償法上の違法性が認められるというべきである。」に改め、同九行目の「そこで」から同一〇行目の「検討すると、」までを削る。

四  同一五枚目裏六行目の「立入調査」から同七行目文末までを「執行官が本件貸室に立ち入ることなく、本件貸室の占有がないと判断したことは、前記の義務を怠ったものといわざるを得ない。」に改める。

五  同一六枚目裏二行目の「とどまり」から同四行目文末までを「とどまるが、その間の書籍の紛失が、第一審被告国の行為との間に因果関係のある原因によるものであることを認めるに足りる証拠はない。」に改める。

六  同一八枚目表一〇行目の「理解した」の下に「(第一審原告がこのように理解したことは、証人木下の証言及び弁論の全趣旨によって認められる。)」を加える。

七  同一九枚目裏五行目の「甲一〇」から同一一行目から同二〇枚目表一行目にかけての「相当である。」までを削り、同一九枚目裏四行目の次に行を改めて次のように加える。

「証人木下の証言及び第一審原告代表者尋問の結果中には、本件貸室に置いてあった書籍は木下が一五年くらいかけて神田の古本屋などで買い集めた三〇〇冊くらいの古書で、一冊平均一万五〇〇〇円くらいはする江戸時代や明治時代のものであり、今後同じものを古本屋で買い集めることはできないと思うとの部分がある。しかし、同証人が本件貸室に置いてあった古書の例として挙げる「近世三百年史・第十五集」及び「画報千年史・第8集」は昭和三二年に発行されたものでやや古いといえるものの、「歴史読本 7」は昭和六〇年に発行されたもので余り古いとはいえず、いずれにしても古本屋で一冊一万五〇〇〇円もするものであるとは到底認め難い。また、甲一四の1ないし10によれば、第一審原告は、昭和六〇事業年度以降、毎年図書費又は新聞図書費として相当の金額を支出してきたことが窺われるが、この費用の支出と本件貸室に置かれていた書籍との関連性は明らかでない。そして、他に証人木下が証言するように本件貸室に江戸時代や明治時代の古書多数が置かれていたことを裏付ける証拠はない。

かえって、前記のとおり、執行官の現況調査当時から本件共同住宅の全室が空き家となり、プロパンガスの栓も全部外されていた上、本件共同住宅の取壊し直前の本件貸室内には、書籍が五、六〇冊疎らに入った本棚が一竿あり、畳の上に一〇冊程度の書籍が散乱しているという状況であったのであり、また、証人木下の証言によれば、平成六年初めころからは電気も使用停止になっていたため、同人は週に一回くらい昼間に資料を調べるために本件貸室を利用していたにすぎなかったこと、同人は、本件共同住宅が競売になっていることを知った後、本件貸室内の物品を引き上げる準備をし、実際に少なくとも机二個を運び出したこと、同人が本件共同住宅の取壊し前に本件貸室に行ったのは平成七年の夏ころが最後であり、その後約半年間は全く本件貸室を利用していなかったことが認められる。

以上の事実にかんがみれば、本件貸室内に一冊平均一万五〇〇〇円もする江戸時代や明治時代の古書三〇〇冊くらいを置いていたとの前示証人木下の証言は到底そのまま信用することはできず、仮に本件貸室内に置かれていた書籍の一部にそのような高価な古書があったとしても、本件共同住宅の取壊し前まで本件貸室内に残存していた書籍六、七〇冊の中にそれが含まれていたかどうかは疑問である。

そうすると、本件共同住宅の取壊し時に本件貸室内にあった書籍六、七〇冊の価額を認定する直接的な証拠はないが、前記のとおりこれらの書籍は木下が漫画及びアニメーション制作の資料等として利用していたものであること、しかし、本件貸室の前記状況からすれば、本件書籍中にはほとんど価値の認められない書籍も相当数含まれていた可能性があること、その他本件に顕れた一切の事情を勘案し、一冊平均一〇〇〇円程度とみて、書籍六、七〇冊で六万円は下らないと認めるのが相当である。」

八  同二〇枚目表八行目の「あり」を「あるというのであり、そうであるとすれば」に改める。

九  同二一枚目裏二行目の「一年足らず」から同六行目の文末までを「約一年一か月早く消滅したにすぎないことになるから、第一審原告は、本件賃借権の消滅によりこの間本件貸室を利用することによって得ることができたはずの利益を失ったというべきであり、本件貸室の最終賃料が月二万七〇〇〇円であったことに照らし、右の利益は少なくとも三四万円を下らないと評価するのが相当である。そして、第一審原告が本件賃借権の消滅により右金額を超える損害を受けたことを認めるに足りる証拠はない。」に改める。

第五  結論

よって、第一審原告の本件請求は、第一審被告国に対して四〇万円の損害賠償を求める限度で認容すべきであるが、第一審被告国に対するその余の請求並びに第一審被告大泉建設及び第一審被告農協に対する請求は失当として棄却すべきであるから、第一審原告及び第一審被告国の各控訴に基づき、第一審被告国に関する部分を右のとおり変更し、第一審原告の第一審被告大泉建設及び第一審被告農協に対する各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条本文を適用し、仮執行宣言については、不必要と認められるからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山正明 裁判官 小野田禮宏 裁判官 高田健一)

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